私たちにはエンドトキシンが必要だ

以前放送された、NHKスペシャル“病の起源”を見逃してしまった人のためにご紹介します。花粉症、アレルギー性喘息の根本的な予防に家畜と触れ合うことが有効だというお話です。昭和30年代以降急速に増え始めたこの花粉症、アレルギー性喘息、現在日本では人口の約3分の1に相当する3800万人の患者が居るそうです。この国民的疾患の根本的な予防に、畜舎に入って家畜と触れ合うことが有効だと言うのです。

今から約2億年前、私たちの直接の祖先である哺乳類が誕生しました(と言っても体長10cmほどのネズミのようなものです)。この時、哺乳類だけが持つ新しい免疫システムを獲得しました。2億年前に新しい免疫システム?なんだかちょっと変な感じがしますが、地球の歴史や生命の起源からしますと2億年前はつい最近なのですね。ちなみに地球誕生から現在までを1日に換算してみますと次の様になります。

0:00    地球誕生
4:00    細菌(バクテリア)誕生
23:40    哺乳類誕生
23:59    人類誕生
23:59,59秒 産業革命始まる。

 私たちには、私たちが哺乳類になる以前から備わっている古いタイプの免疫システムがあります。これは、細菌(バクテリア)やウイルスに対する物で、これを「細菌性免疫」と呼びます。一方、哺乳類になった時に獲得した新しい免疫システムは寄生虫や吸血昆虫といった大型でずっと後になって現れた新しい生き物に対する物です。これまで私たちが置かれた環境は、この古いタイプと新しいタイプの免疫システムをバランスよく活性化させていたのです。

081123_b ところが、昭和30年代を境に私たちは、自分たちの生活環境をからりと変えてしまったのです。都市に集中します。土地がないので土から離れ高層に住む様になります。異常なまでに清潔を求めます。細菌(バクテリア)やウイルスに接触する機会が激減します。こうなると、古いタイプの免疫システムは、活躍する機会が無いので萎縮して眠ってしまいます。新しいタイプの免疫システムが幅を利かせ優位な状態になります。しかし、新しいタイプの免疫システムが対象とする寄生虫や吸血昆虫も、私たちは、排除してしまいました。活動の機会を待っていた新しいタイプの免疫システムは、ちょうど寄生虫や吸血昆虫の毒素に良く似た花粉に反応するようになったわけです。日本人の約3割が罹っている花粉症、アレルギー性喘息、発症のシナリオです。

081123_c 畜産農家の子供は、都会の子供に比べて花粉症、アレルギー性喘息の患者が少ないことは以前から分かっていました。その理由は、多くの研究者が探していた食生活や生活パターンの中には無かったのです。どこにあったか?それは、幼児期から畜舎の中で家畜と触れ合うことにあったのです。研究は、さらにその原因物質を突き止めました。原因物質は細菌(バクテリア)そのものでは無く、エンドトキシンだったのです。エンドトキシンは細菌(バクテリア)の構成成分の1つで、細菌(バクテリア)が死滅した時に放出されます。大腸菌性乳房炎で毒素(エンドトキシン)が大量に血中へ流れ込んだ時に牛が死んでしまうことがありますね、あれです。家畜農家の子供の花粉症、アレルギー性喘息の患者が少ないのは、幼児期から畜舎の中で家畜と触れ合い、家畜の身体やその足元から舞い上がるエンドトキシンを適度の浴びることで私たちの身体に備わっている古いタイプの免疫システムを活性化し、新しいタイプの免疫システムとのバランスを正常に保った体質を作っていたからなのです。

今後、お宮参りや七五三に加え、農場訪問やファームステイなど新しい文化が生まれ定着するかもしれません。都会に住む消費者が、思いがけない角度から生産現場に近付いて来る可能性があります。

家畜と触れ合うことで、花粉症やアレルギー性喘息のみならずアトピーまで、と言う研究成果が出てきたとしたら、私たちにとって強力な追い風になることは、間違いないでしょう。期待しています。

参考ホームページ ⇒ NHKスペシャル|病の起源 第6集 アレルギー ~2億年目の免疫異変~